(ア)背景・目的

  ガソリンスタンド等で用いられる鋼製一重殻地下タンクのうち老朽化の進んだものにおいては、腐食の防止を目的として、内面にガラス繊維強化プラスチック製ライニングを施工する事例が増加していますが、ライニングは長期間の使用により防食性能を損なうおそれがあるため、その経年劣化の状況(健全性)を点検により確認することが危険物流出事故防止のために重要です。しかし、現在行われているライニングの点検方法は主に目視等における定性的なものであり、健全性を詳細に把握することは困難です。こうしたことから、長期間使用された鋼製一重殻地下タンクの内面ライニング鋼板の健全性を詳細に把握するための定量的診断基準と評価手法の確立を目指して、ライニングと鋼板の劣化・腐食状況の各種非破壊計測により得た測定値と防食性能の観点から見た劣化・腐食状態との関係を明らかにする研究開発を令和元年度から行っています。

(イ)令和2年度までの2年間の主な研究開発成果

  鋼製一重殻地下タンクの内面に施工されるものと同仕様のライニング試験片を作製し、これらの試験片を人為的に劣化させて、非破壊計測手法の一つである電気化学インピーダンス(電気の流れにくさ)測定を行いました。その結果、電気化学インピーダンス測定により、ライニングの防食性が低下する挙動を検出できました。

  鋼製一重殻地下タンクにおける内面ライニング鋼板サンプルを入手し、その長期使用に伴う物理化学特性を詳しく調べました。その結果、長期間油と接触したライニングでは、硬さなどの物理的性質に変化が生じていることがわかりました。この挙動は、油の成分である炭化水素がライニングの深層部まで入り込んで残留することによる影響であることを示唆する結果が、分析により得られました。さらに、このような経年変化は、ライニングのインピーダンスやその内部を音波が伝わる速さ(音速)などの数値の変化として検知できることを実証できました。

  鋼板の腐食量を測定する一般的方法として、超音波板厚測定法があります。これは、測定する鋼板表面より入力した超音波が、鋼板の底面で反射して戻ってくるまでの反射時間から厚さを算出する方法です。しかし、腐食が進行すればするほど精度がよい板厚の計測が難しくなるという傾向があります。そこで、腐食が進んだ鋼板について、超音波板厚測定法により計測した板厚と実際の腐食量との関係を調べることにより、腐食したライニング鋼板の腐食量を精度よく推定するための計測手順の検討を行い、一定の方向性を見出しました。


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