(ア)背景・目的

  火災における人的被害を軽減するためには、火災が発生した建物からの迅速な避難が必要であり、特に、自力避難困難者が在館するグループホーム等の施設においては、建物個々の構造や設備、在館者の状態に応じ、きめ細かく避難対策を講じていくことが重要です。これら施設における自力避難困難者の安全確保のために、火災時避難計画の策定に資する避難方法の分析や避難介助行動、避難を補助する機器の開発を目的とした研究開発を行いました。

(イ)令和2年度までの5年間の主な研究開発成果

  老人保健施設、認知症対応グループホーム、サービス付き高齢者住宅等の計10施設についての避難訓練の状況を調査し、その方法等から避難時間の短縮が可能と考えられる事項、効果的な避難活動が行えると思われる改善事項等を検討、各在館者の避難行動に対する能力を調査しました。
  入居者に対する介助者の行為は、手を引く、車いすを押す等の避難活動時の身体介助のほかに、直接には介助不要な入居者であっても歩行時の見守り、一時避難場所に集合した際の見守り等、見守り介助が必要であることが認められました。直接の身体介助であっても、見守り介助であっても、介助者のマンパワーを割くことは同じであり、介助者がいかに効率よく行動できるかということが、避難時間短縮に有効に作用するものと認められました。
  避難補助器具の開発では、自力歩行が困難である在館者を、布団に乗せたまま引きずり避難させる手法の試みのために、布の床面側にフッ素樹脂板を固定した用具を試作しました(以下「試作補助器具」と呼ぶ)。この試作補助器具に60kgのダミー人形を載せ、床カーペットの上で引きずり力を測定しました。また、床カーペットと接触する面が布団に近くなるよう、フッ素樹脂板に布団カバーを取り付けて上記測定と同じ条件で引きずり、必要な力を算出しました。試作補助器具は、動き始めに約0.2kNの力を要しますが、動き出してしまうと0.1kNで移動しています。これに対し布団カバー付き試作補助用具では、動き始めの約0.2kNは同じですが、移動の間も約0.2kNの力を必要としています。試作補助器具では、移動開始後に必要な力は、布団カバー付き試作補助用具の約1/2となり、介助者の負担軽減、移動時間の短縮に寄与していることが明らかになりました。
  避難介助行動の効率化を目指した研究では、施設職員の介助行動の実態を把握するために複数職員が避難介助を行っている高齢者福祉施設における避難訓練を調査すると、避難済み居室の明示を行っているところは調査10施設のうち2施設であり、他の8施設は複数職員が同じ部屋を重複して確認していました。この重複確認をなくすために、避難済み居室を明示する在不在表示装置を試作しました。この装置は居室廊下に設置する子機9台と、事務室に設置する親機1台から構成されます。在館者が在室している又は不在確認前の居室では子機は赤ランプが点灯し、不在を確認した場合は押しボタンの操作により緑ランプが点灯します。この情報は親機に無線で転送され、親機でも在不在を確認できます。この装置の外観を第5-3図に示します。


第5-3図 在不在表示装置の外観

第5-3図 在不在表示装置の外観


  この試作した「在不在表示装置」を実際の福祉施設の避難訓練で試用してもらう予定でありましたが、新型感染症の拡大の影響で試用が行えず、過去に訪問した3つの福祉施設に装置の機能と取扱い方法について説明し、意見を伺いました。その結果、①複数ユニット(1ユニット9部屋対応)を同時に稼働させたい、②在不在の表示はランプの点灯と消灯だけでもよい、③居住者が間違えて押さないようなボタンの構造がよい、④ナースコールと連動、自動火災報知設備と連動といった機能を付加してほしい、といった意見が得られました。


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