質問

台所のコンロ近くの壁が、火種もないのに急に燃え出す「低温発火」という現象があると聞きました。そんなことが起きるのですか。それは、どんな現象なのですか。

回答

低温発火についてご説明します。(1)

一般的な木材の発火を考えて見ましょう。外部から木材が加熱されると、熱源から与えられた熱と加熱された材料から発散していく熱のバランスでその材料の温度が決まってきます。もし、熱源から与える熱が大きく、材料から発散する熱より大きければ熱が材料に蓄積されることになり、材料の温度は上昇してゆきます。ある温度に達すると、材料自身の酸化反応(発熱反応)が激しくなり、材料の温度はさらに上昇し、燃えだします。

この燃えだす温度を、周りに火種(コンロの炎)があり、それにより発火する温度のときに引火温度といいます。引火温度は220~264℃ (2)です。また、周りに火種がなくとも自然に発火する温度の時に発火温度といいます。発火温度は260~416℃ (2) です。

それでは、低温発火とはどのような現象でしょうか。熱源からの熱が木材に与えられ、始めは木材の水分などが蒸発し、木材が多孔質化してゆきます。多孔質化した木材は断熱性が良く、熱が逃げにくい材料になってゆきます。その結果、低い温度100~150℃(この温度より低い温度でも周りの状況によっては)で加熱されても木材内部で蓄熱が起こり、ついには引火温度や発火温度にまで達して燃え出すことになります。このような現象を低温発火といいます。 例えば、コンロにより近くの壁材が長い間加熱されて発火する場合、風呂の煙突や暖房のスチーム管に接している木材が長い間加熱されて発火する場合などは、低温発火の可能性が高いです。

では低温発火を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。
次のいくつかの方法があげられます。

  • コンロと壁との距離を十分とる
  • 距離をとれない場合は熱を伝えない材料を壁との間にはさむなどの対処をする
  • ある程度温度の高い物質と材料の距離は離す

低温発火に関する参照文献として、次のものがあります。

(1) 金原寿郎、川崎昭:「木材の低温加熱発火について」、日本火災学会論文集 (Bulletin of The Fire Prevention Society of Japan), Vol.16, No.2, p.9-16 (Jan. 1967)
(2) Carlos J. Hilado, “Flammability Handbook for Plastics Fifth Edition”, TECHNOMIN, p.44, 1998