(ア)背景・目的

  南海トラフ地震や首都直下地震の事前の被害想定や発生時の活動計画策定に資するため、消防用大規模市街地火災延焼シミュレーションの改良に関する研究を行っています。現状のシミュレーションでは、火災の拡大に影響を与える土地の傾斜が考慮されておらず、傾斜地を多く有する地域では精度が低いため、これを解決するための改良を行っています。


(イ)令和2年度までの5年間の主な研究開発成果

  「地域の詳細な火災リスク評価が可能なシミュレーションモデルの構築に関する研究」では、従来の消防研究センターの市街地火災延焼シミュレーションモデルに土地の高低差の要素を取り入れるために形態係数*3に基づく延焼速度式を導出したほか、隣接建物の形態係数を計算するために壁面の向き合う角に応じて三角形や四角形の形態係数を求める式を導出するとともに、モデル市街地に適用して従来の市街地火災延焼シミュレーションによる結果と比較しました。また、従来のシミュレーションソフトウェアに、地域の延焼リスクに関連すると考えられる指標をメッシュ表示する機能等を追加したほか、水利表示機能の改良など、機能の向上を行いました。さらに、従来の消防研究センターの市街地火災延焼シミュレーションでは日本全国を19の系に分ける平面直角座標系を用いて計算を行っていたため日本全国の統一的なデータを作成することが難しかったことから、日本全国の統一的なデータを作成することができるよう緯度・経度を計算に用いるようソフトウェアを改修しました。
  また、Web版市街地火災延焼シミュレーションシステムを新規に開発し、国土地理院がインターネット上に公開している電子地図を背景に表示することで地形や町並みを視覚的に把握できるようにすることにより、消防防災関係者自らが実火災に近い想定を行うことができるようにしました。(第2-1図)。


第2-1図 地形や町並みを視覚的に把握できるようにしたWeb版市街地火災延焼シミュレーションシステムの計算結果表示例

第2-1図 地形や町並みを視覚的に把握できるようにしたWeb版市街地火災延焼シミュレーションシステムの計算結果表示例


*3 形態係数:二つの面が存在するとき、一方の面から放射された電磁波がもう一方の平面にどの程度到達するのかを示す係数であり、0から1の値をとります。


  「広域の延焼被害予測を高速で実行可能なシミュレーションモデルの構築に関する研究」では、大規模地震の被害想定の分野でよく用いられている延焼クラスタ*4方式の考え方を用いることにより広域の延焼被害を高速に推定できるのではないかと考えて、従来の延焼クラスタ方式を広域版地震被害想定システムのメッシュ計算に適応させた高速な計算手法について検討しました。また、従来の延焼クラスタ方式では、例えば2棟の建物がある状況で風上の建物から風下の建物へは延焼するものの風下の建物から風上の建物へは延焼しないなど延焼の方向性を考慮していなかったため、延焼の方向性を考慮して有向グラフを用いて延焼クラスタを作成するとともに延焼被害を推定する手法とその高速な計算手法について検討を行いました。さらに、考案した高速な計算手法をツールとして実装して比較検討を行い、局所的に大きな差がみられる場合があることを確認しました。


  従来から開発してきた市街地火災延焼シミュレーションプログラムについては、糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防の在り方に関する検討会の報告書を踏まえ、消防研究センターホームページにおいて消防本部及び消防団を対象として公開し、問合せのあった消防本部等100機関に対してシミュレーションプログラム及び計算に用いる都市データの提供を行いました(令和3年3月時点)。


*4 延焼クラスタ:火災が発生した時、相互に延焼すると考えられる建物群を延焼クラスタと呼びます。延焼クラスタ方式の被害想定では、ある延焼クラスタ内の少なくとも1棟から火災が発生すると、その延焼クラスタに含まれる全ての建物が焼失するものとして計算が行われます。



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