消防防災科学技術賞 平成29年度の表彰式と受賞作品

表彰式

 消防防災科学技術賞は、消防科学技術の高度化と消防防災活動の活性化に資することを目的として、「消防防災機器等の優れた開発・改良を行った方」、「防防災科学に関する優れた論文を著した方」、「原因調査に関する優れた事例報告を著した方」を消防庁長官が表彰する制度で、平成9年度に創設されました。

 平成29年度は、全国の消防機関、消防団、消防機器メーカー等から総計90編の応募があり、29編(優秀賞26編、奨励賞3編)が受賞しました。

 表彰式は、平成29年11月29日(水)に東京・港区ニッショーホールで行われ、稲山消防庁長官より、受賞者に対し表彰状が授与されました。


稲山消防庁長官による表彰状授与 選考委員会 講評
選考委員会委員長
亀井浅道 元横浜国立大学特任教授
前列左から五人目より、 山田 常圭 消防研究センター所長・坂野 恵三 全国消防長会事務総長(委員代理)・亀井 浅道 元横浜国立大学特任教授(選考委員会委員長)・稲山 博司 消防庁長官・橋本 巨 東海大学教授・八木橋 厳 救急救命東京研修所 教授

受賞作品

1. 優秀賞(26編)

  • 消防職員・消防団員等による消防防災機器の開発・改良(5編)
    (1)簡易バキューム装置
    伊藤 博文、大里 英雄(飯塚地区消防本部)
     消防本部管内にある地下式消火栓の中に、型枠内の排水が悪く、雨が降る度に枠内に泥水が溜り、放水口及び開閉バルブが見えなくなる水利がいくつか存在する。火災時の水利部署に支障をきたすので、柄杓(ひしゃく)や灯油用の簡易ポンプを利用してこの泥水を汲み取っているが、排水作業に長時間を要するうえ、深さがある為に腕を深く差し込まなければならず不衛生であり、排水処理に苦労している。そこで簡単に泥水を吸い上げることができる装置について思考していたところ、一番身近にある消防車の真空ポンプに着目し、この真空ポンプを利用したシンプルで製作が簡単な「簡易バキューム装置」を考案した。
    (2)採水管陽圧方式による防火水槽凍結対策の開発
    瀬戸 正樹、土田 靖、谷 直人、渡邉 卓(高山市消防本部)
     当本部管轄地域は1、2月平均気温が氷点下、最低気温-20℃を下回る地区が存在し、防火水槽の凍結による水利確保に苦慮している。今回無蓋防火水槽の凍結に対する水利確保物品を開発したものである。具体的対策方法は、無蓋防火水槽に吸管単体をあらかじめ投入し、有蓋防火水槽の採水管のような状態とする。吸管メス側接合部に今回開発した気密性を有した蓋を設置。蓋にはタイヤチューブバルブを取り付け、そこからエアーを注入するものである。吸管内は陽圧となり水は排出され、吸管内水面が凍結深度以下まで下がることから凍結を免れるため、蓋を取り外すことにより水利確保が行えるものである。
    (3)ロープ展張並びに浮具等の搬送投下を実施でき、かつ車載を考慮した無人航空機の開発
    原科 享介(春日井市消防本部)
     メディア等によって集中豪雨による人命救助活動がクローズアップされることが多く、増水によって中州、バスの屋根上や電柱上に人が取り残される映像が私の脳裏に焼き付いている。流水救助下の活動において対岸にロープ展張することは、高度な技術と方策を必要とし、救命索発射銃は、飛びすぎや位置を制御できないことがあり二の手、三の手が欲しいところである。そこで無人航空機を活用し、ロープ展張の初動技術を構築すること、また浮具等を搬送し投下することで、要救助者を取り巻く環境を安定化させることに着目し遠隔投下が可能で、かつ消防車内で準備設定できる大きさの無人航空機を開発した。
    (4)災害対応ピクトグラムの開発
    渡邉 敏規、西山 猛、髙月 勇(岡山市消防局)
     NBC災害等の多数傷病者が発生する事案においては、歩行可能者をいかに効率良くスピーディに誘導するかが災害収束への時間短縮において重要になると考える。多数傷病者の中には、災害時要支援者(子ども、訪日外国人など)がいることも予測され、それらを含むより多くの人に対して、ピクトグラム(絵文字)を用いた分かり易い誘導や管理を行うことを目的として「災害対応ピクトグラム」の開発を行った。
    (ピクトグラムの例)
    (5)フィン本来の持つ能力を引き出すインソールセット
    水谷 佑典(大垣消防組合消防本部)
     水難救助のフィン技術向上は、隊員にとって重要課題だが、統率性ある参考書物はなく、個人の経験、感覚で行われているため、容易に効率良く推進力を得るフィンワークが身に付かず、フィン先の使用やフィンのしなりといった性質、特徴を活かしきれない。また、潜水活動、流速環境下での活動は、隊員への負担は大きく、フィン技術をさらに発揮させる器具がない。インソールを使用してフィンを水面に浮かせる本開発品は、前述の課題を克服し、キック強化や効率良く推進力を得るフィンワーク、フィン本来が持つ能力を引き出すことに成功した。
  • 消防職員・消防団員等による消防防災科学論文(5編)
    (1)石油コンビナート等災害用訓練「バーチャル・リアリティ・シミュレーション」の検証について
    中村 将也、村田 慎吾、瀨田 直史、宇高 正人、滝口 洋介(大竹市消防本部)
     近年、社会経済情勢の変化や生活様式の多様化に伴い、複雑化する災害に備えるための訓練として、机上型の図上訓練などが重要視され、多くの場面で実績を上げている。しかしながら、この机上型の訓練は回数を重ねるごとにマンネリ化するという課題があることから、本稿では現実的な側面を取り入れる工夫をおこなった。机上型の図上訓練に現実的側面となる体験型の燃焼実験を組み合わせた訓練手法を考案し、『バーチャル・リアリティ・シミュレーション「VRS」』と名付け、検証を行った。
    (2)消防団に対する訓練指導方法の検証について(消防団災害対応訓練マニュアルの作成)
    森 誠一(名古屋市消防局)
     消防団は、地域防災の中核であり、大規模地震発生直後に不足する消防力の担い手として、消火・救助などの活動において消防隊といかに連携するかが、災害による被害の拡大抑止の鍵となる。緑消防署では、震災時の火災による危険度などを調査し、地域における消防活動を検証したうえで、消防団が消防隊と連携して活動するための総合的な災害対応訓練マニュアルを作成した。このマニュアルを活用することで、消防団が積極的に活動できる体制づくりや、消防隊との連携活動を効果的に行うことが期待される。
    (3)火災動画等を利用した筒先部署位置研修法の一考察
    宮田 真行、児玉 真一、川上 晃義、山下 哲平、國府 和輝(京都市消防局)
     消防隊の指揮者として、筒先部署位置の選定は非常に重要な判断事項である。筒先部署位置の原則をしっかりと理解し、災害現場で自信を持って判断できるよう、火災動画等を活用した筒先部署位置の判断に係る研修法について、考察を実施した。具体的には、連棟式住宅火災や耐火共同住宅火災など3つのモデルについて、ミニチュア建物の燃焼実験動画や実際の火災現場動画を活用し、火災の拡大推移や放水による影響を視覚的に把握させ、消防隊の活動について検討する内容とした。こうした動画を活用することによって、受講者の94%に効果を実感させる研修を実施することができた。
    (4)耐火造建物の火災性状と消防活動技術に関する研究
    中島 明俊(神戸市消防局)
     耐火構造建物火災における従来の「噴霧注水による水損防止」を主眼とした戦術から、より安全かつ損害の少ない消火方法を身につけることを目的に、①模擬家屋での燃焼実験による火災性状の確認②火災の成長過程の細分化③戦術転換への提言を行った。また、あわせて燃焼実験及び座学研修の方策を検討した。
    (5)消防団員の操法訓練中における傷害発生の実態について
    中宿 伸哉、高井 史朗(美濃加茂市消防団)
     平成27年度の公務災害の発生状況では、負傷者及び疾病者1032人中演習訓練時が681人66.0%を占めており、そのうち613人90.0%がポンプ操法訓練中であったと報告されている。そこで、本研究では、操法訓練における傷害予防の手段を考案するための一助に繋げることを目的とし、当消防団員に対して操法訓練中に生じた傷害をアンケートにて調査した。その結果、傷害発生は、年齢に加え、要員としての経験不足も関与しているが考えられた。また、傷害は、切り返し動作や全力での走行が多く要求される場合に多く、さらに、その部位は大腿部、腰部に多く発生することが示唆された。
  • 一般による消防防災機器の開発・改良(4編)
    (1)悪戯・テロ対策用表示機能付き取っ手の開発
    株式会社 横井製作所
     屋内消火栓など、緊急時に使用する消火機器類を格納する格納箱は、使用目的より施錠することができない。そのため、不特定多数が利用する駅や公共施設では悪戯により消火機器類に不具合が発生し、また、近年ではテロを目的とした危険物の隠し場所としても懸念される事態となってきた。そこで、開発した取っ手は、何者かが格納箱の扉を開放した場合、取っ手を操作した痕跡が取っ手本体にサイン表示され、内部に異常のある可能性が高いことを示す。このことにより、日常警備や点検をより的確に実施できることになり、より安全で信頼性の高い消火設備となる。
    (2)アルキルアルミニウム類用火災抑制剤「アルキルフォーム」の開発
    ヤマトプロテック株式会社、日本アルキルアルミ株式会社
     自然発火性物質、且つ、禁水性物質であるアルキルアルミニウム及び有機金属化合物(以下、「アルキルアルミニウム類」と称する。)は、漏洩し空気に触れただけで発火し、また、水と爆発的な反応を生じるため、従来、消火活動を積極的に行える消火剤が無かった。新規開発の「アルキルフォーム」は、主成分に水を用い泡性状で使用する消火薬剤だが、既存の泡消火剤と同様な使い方でアルキルアルミニウム類火災を容易に火災抑制及び消炎でき、同時にアルキルアルミニウム類を不燃物に分解する性能を持つため、アルキルアルミニウム類の火災に対し積極的な消火活動に使用できる薬剤として開発した。
    (発泡した消火剤)
    (3)消防用ホース結合金具 簡易離脱器の開発
    米田 哲三、沖田 祐介、掛川 時由、小野寺 健一(ヨネ株式会社)
     町野式結合金具付きのホースを使用する際において、外気温がマイナスになり結合金具が凍結した場合、また細かい砂や柔らかい土が結合金具の隙間に入って噛みこんでしまった場合に、手で結合部を外すことが困難になるケースがある。それが原因でホースの着脱作業、そして消火活動に遅れが生じ、二次災害発生のリスクが伴う。そこで本開発品では、手で着脱が困難になった町野式金具接合部をクサビとテコの原理で誰でも簡単に外すことが出来るようにした。
    (4)屋外用AED収納ボックスの開発
    鹿児島県龍郷町総務課、野村特殊工業有限会社
     屋外設置用に普及しているAED収納ボックスでは、収納されているAED本体の機能を守るため温度管理や風雨、塵などに対する対策は十分とられているが、台風や季節風等で常に潮風にさらされる環境では収納ボックス自体の塩害対策が不十分であった。今回、外気を遮断した密封状態で温度管理を行える収納ボックスを開発したことにより、塩害にも対応することが出来たため、海水浴場の屋外等場所を選ばずにAEDを設置することが可能となった。
  • 一般による消防防災科学論文(3編)
    (1)自衛消防隊がより安全に活動できる屋外消火栓設備の放水器具等の考察
    前田 利正(三洋化成工業株式会社)
     工場における夜間や休日の火災を想定した少人数自衛消防隊による屋外消火栓使用時の課題、および屋外消火栓操法訓練中における自衛消防隊員の左手指負傷事案、これらの二つの問題点解決のため、全国各地の屋外消火栓操法要領の調査、公設消防隊等が使用する放水器具等を購入して弊社自衛消防隊員による使用状況の検証、さらには政令指定都市の屋外消火栓設置基準の調査を実施した。これらの調査及び検証から、自衛消防隊員でも安全かつ容易に使用できるものを精査して導入することが重要であることが分かった。
    (2)大規模災害発生時の活動隊員に必要な活動食の要件検討および備蓄内容の現状調査
    小泉 奈央、麻見 直美(筑波大学)
    赤野 史典、玄海 嗣生(東京消防庁)
    緒形ひとみ(広島大学大学院)
     近い将来発生が予見される大規模災害時において、活動隊員が迅速かつ災害沈静まで継続的に災害活動に従事できる体制を確保するために必要となる『活動食』の要件を整理し、備蓄の充実強化の必要性を検討した。方法としては、消防隊員が災害活動時に摂る活動食の必要要件を質問紙およびヒアリング調査や文献研究を通して検討するとともに、災害活動隊員のための活動食備蓄状況等の現状調査を問う質問紙およびヒアリング調査を行った。これらの結果、消防隊員が災害活動時に十分なパフォーマンスを発揮するための活動食の要件および現在の備蓄状況が明らかになり、現状に則して活動食備蓄の準備をより充実させていく必要性が明らかになった。
    (共起ネットワークによる分析結果の例)
    (3)感温性を有する新規消火剤の消火特性と物性
    真 隆志(三生技研株式会社)
    菅原 鉄治、松木 嚴生(日向市消防本部)
    塩盛 弘一郎(国立大学法人宮崎大学)
     感温発泡性無機組成物の知見を基に、ケイ酸化合物を用いた新規消火剤を開発した。本消火剤は、火災熱を利用して燃焼物表面を固体膜または固体泡で被覆して消火するもので、被覆物の形状は粘度によって制御でき、その被覆物は高温領域の窒息作用を継続できる。消火剤の粘度を低くすることで消火効果が高くなり、水の消火能力を1とした場合に、本消火剤は3.4倍の消火能力であった。林野火災の残火処理モデル実験で、切株の再燃防止が確実に行える事が示され、環境負荷も低いことから、効果的な消火戦術が行える可能性を見出した。
  • 消防職員による原因調査事例報告(9編)
    (1)リチウムポリマー電池内蔵エンジン始動補助器からの出火に関する調査報告
    辻 徹也、髙岡 吉彦(東近江行政組合消防本部)
     本火災は、一般貨物自動車運送業の事務所において、リチウムポリマー電池内蔵エンジン始動補助器を事務員が充電していたところ約21時間後に無人の室内から出火した建物火災である。現場見分及び関係者からの聞き取りの結果、出力専用のシガーソケットに他社製充電アダプターが誤って接続されていたことが判明、合同鑑識の結果、同接続では安全保護機能が働かず内蔵電池が過充電状態となり出火に至ることが推定され、再現実験を行いこれを立証した。この調査結果から出火元事業所に対し社内教育を徹底するよう指導するとともに、販売メーカー両社へ再発防止のための改善指導を行った事例である。
    (2)自動車エンジンの電動補助冷却ポンプの出火事例について
    櫻井 友大、大野 直也(名古屋市消防局)
     本火災は、走行中の車両のエンジン部分から出火した火災である。名古屋市消防局消防研究室と合同見分を実施した結果、出火箇所は、エンジンルーム内の電動補助冷却ポンプのコネクター部分であることが分かった。その後、名古屋市消防局消防研究室による機器分析及び名古屋市消防局中川消防署による検証実験の結果から、出火原因は、コネクターピン間に堆積物が堆積したことで絶縁性能が低下し発熱し、コネクターホルダーが発火したものであると解明した。この調査結果から、自動車メーカーに対し予防的な点検整備の必要性を伝え、今後の火災予防に役立ててもらえるよう指導を行った。
    (3)トレーラ火災時の『調査教本』の作成
    塩谷 俊行(神戸市消防局)
     トレーラ火災は全国的に発生しており、神戸市内においても件数は多くないものの毎年発生している状況である。本稿は、トレーラ火災について神戸市消防局で今まで実施してきた類似火災防止の取り組みと、職員の調査技術向上のために新たにトレーラ火災時の調査教本を作成するに至った経緯について、火災事例と本部調査係員としての自身の苦い経験を併せ紹介するものである。
    (4)ポータブルブルーレイプレーヤーの出火事例から
    辻 明人、村上 芳郎、稲田 悠哉(大阪市消防局)
     本件は、共同住宅の3階の居室内でポータブルブルーレイプレーヤー(以下、「ポータブルプレーヤー」とする。)のリチウムイオンバッテリーから出火し、室内を11㎡焼損、19㎡表面焼損した火災事案である。考えられる原因から、コンセントに接続されていないポータブルプレーヤーの製品鑑識を実施し、内蔵されているリチウムイオンバッテリーの内部短絡による出火と判定した。当事案からリチウムイオンバッテリーに過電流を流すことで内部から出火させる実験を行った。この実験により、リチウムイオンバッテリー内部から出火した場合の共通点を発見した。多くの電気製品に使用されており、今後も発生が懸念されるリチウムイオンバッテリーからの出火を判定するための参考になるものである。
    (5)ホットスポットが起因した太陽電池モジュール火災について
    秋田 勇紀、佐藤 悠(川崎市消防局)
     本火災は、昼間、専用住宅屋根面に施工された屋根一体型太陽電池モジュールから出火した火災である。火災原因としてよく見られる「配線」や「接続箱」等からの出火ではなく、モジュール自身から出火したもので、出火箇所とは離れた場所で起きていた「ホットスポット」と呼ばれる現象が起因していた。火災原因調査を視野に入れた火災防ぎょ活動、徹底した見分・鑑識を経て火災原因判定に至り、関係業者に対し火災予防対策について検討するよう要望した事案である。
    (6)クレジットカード信用照会端末からの出火事案
    亀ヶ谷 雅之、海老根 浩次、石本 大起、遠藤 真哉、下田 直史(千葉市消防局)
     本事案は管内の同一建物内において、クレジットカード信用照会端末が焼損する事案が相次いで4件発生したものであり、再発防止を図ることが急務と考えられたことから、迅速かつ適切な原因究明のために、各種分析機器を使用した科学的な調査活動を消防機関主体で実施し、リチウムイオンポリマーバッテリーからの出火であること、更には明確な出火機構の解明に至ったものである。また、本調査結果を受け、製造事業者側からは同型カード端末約4,600台のバッテリー交換や今後製造する同型カード端末のバッテリーの仕様変更等の再発防止対策が実施され、類似火災防止に大きく寄与した事案である。
    (7)原油タンカー爆発火災の火災調査について
    松田 悟志、塚原 昌尚、寺尾 健一、高嶋 泰裕、柳田 雄貴(姫路市消防局)
     本件火災は、姫路港の沖合約5kmの瀬戸内海上で原油タンカー(総トン数998トン、全長81m)が爆発炎上し、約6時間後に沈没した火災である。人的損害については、乗組員8人のうち1人が死亡、4人が重傷であった。調査については、沈没した原油タンカーが引き上げられたのち、消防庁消防大学校消防研究センターの技術支援を得て、海上保安庁、国土交通省運輸安全委員会と3回(姫路港沖、広島県内、香川県内)にわたる合同見分や原油の燃焼実験等を実施した。本件火災調査の結果をふまえ、事故船を所有する船会社に今後の安全対策を指導し、同社を通じて関連会社の注意喚起につなげている。本件は、経験したことのない巨大な船舶の火災調査であり、海の上や県外など、限られた資機材や人員により猛暑の中で実施した。これらの経験から学んださまざまな調査の手法や海上保安庁との連携について、本稿をまとめ、今後の船舶火災調査の一助になればと考える。
    (8)花火の火薬製造中の収れん火災
    須藤 嘉樹(北九州市消防局)
     花火製造工場の資材置場内の作業場付近から出火し、資材置場及び隣接する倉庫の一部を焼損した建物火災である。資材置場内でステンレス製ボウルに星と呼ばれる火薬を複数個入れ放置していたところ、資材置場の屋根部分が塩化ビニル製波板の屋根であったため、太陽光及び太陽の熱を透し、ステンレス製ボウルの収れん作用により、星(火薬)が発火し、周囲の火薬にも着火したものと推定した。検証実験の結果、日差しの弱い状態であっても、焦点が一点に集中していれば、短時間で発火に至ることが確認できた。
    (9)トラックのABSユニットから出火した火災事例及び調査の手順について
    白瀧 一裕、田辺 幸大、柄澤 基彬、伏見 栄浩、貝瀬 東一朗、中川 俊(新潟市消防局)
     本事例は、トラックの後輪及び荷台の一部が焼損したもので、車両の状況、現着時の状況、周囲の環境等から当初は放火が疑われたが、見分時において、ブレーキ系統の一部のABSユニットの焼損状況に疑問を持ち、風向きの考慮、着火物の燃焼特性検証のための実験、ユニット詳細見分、X線透過装置等を用いての部品内部基盤の鑑識へと手順を進め、当該ユニットからの出火という結論に至った。本事例を一過性の事案とせず、調査手順と、調査途上の各段階において意識すべきことを明確化したフロー図を作成し、多様な火災に対応できる共有ツールとして示した。

2. 奨励賞(3編)

(1)島田巻きと狭所巻きの特性を併せ持つ新たなホース巻き(KS巻き)の開発とホース延長法の研究
水門 浩一(神戸市消防局)
 火災現場では、しばしばホースの余長をさばききれず、乱雑に入り乱れている状況が見られる。このようなホース延長状況を改善するために、島田巻きと狭所巻きの特性を併せ持つ新たなホース巻きを開発し、そのホース延長を行う過程で自然とホースの余長が処理される状況を作り出すことで、広所、狭所に関係なくきれいなホース延長の実現を目指し、研究を行った。新開発のホース巻きは、豊富なホース延長のバリエーションを持っているため、現行のホース延長を実施することが可能であるだけでなく、乱雑なホース延長状況が大幅に改善でき、高い汎用性と実用性を持っている。
(2)熊本市消防署管轄別救急需要の推計予測
一村 直樹(熊本市消防局)
内山 忠、安部 美和(熊本大学)
 熊本市でも全国と同様に今後も救急需要の増加が予測されており、地域の実状に応じた救急需要対策が課題となっている。同時に人口が減少し始め、救急需要がいつまでに、どの程度まで増加するのかわかっていない。そこで本研究では、熊本市救急事案管理システム(NEFOAP)データ、熊本市人口データ(住民基本台帳)及び国立社会保障人口問題研究所推計値を用いて救急需要の現状分析と、平成72(2060年)までの地域(消防署管轄)毎の救急需要将来予測を行った。その結果、熊本市では平成27年を基準に約1.3倍に増えるなど救急需要の状況が把握できた。
(3)応急手当絵本
災害に強いまち・ひとを作る会
 誰もが応急手当(心臓マッサージやAEDの使用)ができる環境を作る効果的な1つの方法として、幼い頃から学んでいくことも大切だと考え、子供達でも学ぶ事ができる応急手当絵本を作成した。
 
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