消防防災科学技術賞 表彰式

自治体消防制度50周年を記念して、消防庁は平成9年度から消防科学・技術の高度化と消防防災活動の活性化に寄与することを目的に消防防災機器の開発・改良、消防防災科学に関する論文及び原因調査に関する事例報告を募集し、優秀な作品を消防庁長官が表彰する制度を創設しました。平成28年度は、第20回目となります。

文書による募集案内、消防防災関連紙誌、各種消防関係団体の機関誌への募集広告及びインターネットへの掲載等により広く作品を募って参りました。その結果、本年度も87編という多くの作品の応募がございました。

応募作品は、学識経験者及び関係行政機関並びに関係団体を代表する者からなる表彰選考委員会において審査され、23編(優秀賞21編、奨励賞2編)が受賞しました。

表彰式は、平成28年11月16日(水)に東京・港区ニッショーホールで行われました。


消防庁長官による表彰状授与 選考委員会 講評
選考委員会委員長
亀井浅道 元横浜国立大学特任教授
前列左から四人目より、 山田 常圭 消防研究センター所長・八木橋 厳 一般財団法人救急振興財団・本間 恭二 電気通信大学名誉教授・青木 信之 消防庁長官・亀井 浅道 元横浜国立大学特任教授(選考委員会委員長)・須貝 俊司 全国消防長会事務総長(委員代理)・猿渡 知之 消防庁審議官

受賞作品

1. 優秀賞(21編)

  • 消防職員・消防団員等による消防防災機器の開発・改良(5編)
    (1)化学プラント火災用防火服の開発
    塚原 昌尚(姫路市消防局)
    深江 亮平、川月 喜弘(兵庫県立大学)
    武藤 拓也、鳥海 直人(帝国繊維株式会社)
    姫路市消防局では、平成24年に石油コンビナート等特別防災区域内に所在する特定事業所の化学プラント工場で発生した爆発火災において、燃焼したアクリル酸廃液を浴びて多くの消防職員が負傷した。この教訓を活かして、石油コンビナート災害や危険物施設、タンクローリー等危険物を取り扱う施設での事故で飛散する化学薬品や燃焼付着物に対応可能な機能・性能を付加させた建物火災、林野火災においても使用できる「化学プラント火災用防火服」を開発した。
    (2)ショアリング・トレーニングキットの開発
    益田 英和(浜松市消防局)
     近年、大規模地震災害における救助活動時の安全管理対策として、ショアリング(倒壊建物安定化)の考え方と技術が全国の消防職員に浸透しつつある。しかし、実際にショアリング訓練を行う場合、木材等の部材費用がかかること、反復訓練が困難であること、訓練人員・訓練時間を要することなどの問題点があった。今回開発した「ショアリング・トレーニングキット」により、安価な材料でショアリングの技術及び知識を理解できるとともに個人における反復トレーニングが可能となった。
    (3)てこの原理を応用した自在支点器具の開発
    奥川 竜次、西村 卓(東近江行政組合消防本部)
     バールは救助資器材の1つとして消防車両に積載されているほか、自主防災組織等でも大規模災害等の主要救助器具として備蓄されている。使用方法は様々だが、主に「てこの原理」を利用し、支点部分は当て木など積み上げ構築しているが、地盤面の環境により支点の構築ができないなど様々な問題点が生じているのが現状である。そこで今回、消防職員だけでなく一般市民の方でも容易で安全に、いかなる環境下でも使用できる自在支点器具を作成した。
    (4)狭所巻きホース展張補助器具の開発
    東森 祐介(東近江行政組合消防本部)
     主に1本で使用されていた狭所巻きホースを、2本結合した状態でホースバックに収納するもので、ホースバックには専用の押し板を取付け、ホースの形状保持と充水時の形崩れ防止の役目をする。ホースバックの展開作業、分岐管へのホース結合作業、分岐管の送水操作といった、活動に必要な全ての動作が一人で行える。また、ホースは狭所巻きであるため、省スペースで放水体形が構築できるとともに屋内進入及び転戦が必要な場面では容易に活動可能である。
    (5)簡易縛着器具
    熊本 廣展、沖野 拓朗、三浦 功世(福岡市消防局)
     ロープレスキューや火災現場での救出活動では,身体結索や縛着器具を使用して要救助者を救出しているが,これらの縛着要領は,要救助者が1名である場合には大きな効果を発揮するが,多数の要救助者が発生した場合には,体格によって結索を変更したり,特性の異なる縛着器具を使用することになり,時間を必要とする。今回の開発では,三つ打ちロープ・編み構造ロープを問わず,各消防本部が使用しているロープを使用して安価で作成が可能であるため,縛着器具を複数所有することができ,多数の要救助者が発生した場合でも同じ縛着要領を反復することで迅速性に繋がる。
  • 消防職員・消防団員等による消防防災科学論文(3編)
    (1)統計手法を取り入れた火災原因究明について
    松本 龍一、髙倉 誠二、松本 二郎、北村 知春(北九州市消防局)
     火災統計と言えば、年間の火災件数や原因別順位など予防広報資料として活用されているが、今回、軽乗用自動車からの火災事例において、発生要因を統計から考察する手法を取り入れ実施した。結果、特定の車両(製品)から複数の火災が発生した場合、その情報を集約すれば、特定の製造年等での発生が増加するなどの統計上の特徴が見られ、その情報を精査すれば、火災原因を判明させる一要素とすることができた。しかし、単一の消防本部では情報は少なく統計手法を取り入れた火災原因究明は困難であることから、全国の火災情報を全ての消防本部においても入手できる体制の構築も同時に要望したい。
    (2)消防団員への防災危機意識調査から見た今後の消防団のあり方に関する一提案 ~“消”防団から消“防”団へ~
    大宮 佐知子(徳島市消防団)
     本研究は、徳島市内の消防団19分団の分団長を対象にしたアンケート調査を実施し、各分団の災害危機意識と災害対策の現状を明らかにすることで、消防団員の安全と地域住民の安全をよりよくするため、各分団の地域の特性に合った災害対策訓練や徳島市消防団の『地震・津波発生時の行動基準(暫定版)』2)(以下、災害対応マニュアルとする。)を基本とした、分団独自のマニュアルの重要性について明示し、これまでの消防団のあり方に加え、地震発生時に更なる貢献のできる消防団への変革に関する提案を行うことを目的とする。
    (3)座標測量によるスプリンクラーヘッド検査システムの考案について
    山﨑 晋、竹山 綱紀(小松市消防本部)
     スプリンクラー設備の検査等において,スプリンクラーヘッドの配置を,正確,安全,効率的,さらに,誰にでもできる検査システムを構築し,未警戒箇所を的確に見つけだすことを可能とするものである。システムの構築には,まず,スプリンクラー設備の検査の現状と問題点を抽出し,その解決策として,測量技術,スマートフォン及び図面作成ソフトCADを組み合わせたシステムを構築した。当検査システム構築による効果として,予防行政に携わる若手職員の技術力向上が急務な中,システムを活用することにより検査員の技術力向上に寄与し,より質の高い市民サービスに繋がる効果がある。
  • 一般による消防防災機器の開発・改良(3編)
    (1)ホース巻取機の開発
    荻野 聡(大阪北港地区共同防災組合)
     消防活動及び訓練終了後に、ホースを撤収する作業は非常に重労働であり、腰痛や熱中症の要因となっている。現在までに数種類のホース巻取機が開発されているが、重量・寸法が大きいため車両に積込む事が現実的に難しい、巻き取る際にホースや金具を引きずってしまい傷つける、作業に複数名が必要、といった問題点があった。そこで、①軽量・コンパクト②ホース・金具を引きずらない③一人でも操作ができるという3つの条件を満たすホース巻取機(一重巻き用及び二重巻き用)を開発した。
    (2)薄型軽量エアージャッキの開発
    横井 亮(株式会社 横井製作所)
     救助用で使用されているエアージャッキは、消防隊向けの超重量物の排除を目的としたものであり、自主防災組織の誰もが手軽に扱える物にはなっていない。その為、消防団や自主防災組織では、ほとんど備えられていないのが現状である。今回開発した薄型軽量エアージャッキは、耐久性及び耐圧性能に優れた消防用ホースの技術を利用することで、薄く軽量で、さらに安全性に優れたものとなっている。自転車の空気入れでの空気充填を可能にすることで、電力などの動力源を必要とせず、災害時の備えに適した救助用資器材とすることができた。
    (3)接続確認機構付 安全型スタンドパイプの開発
    米田 哲三、山本 高裕、髙雄 信行(ヨネ株式会社)
     スタンドパイプを使用した際、地下式消火栓との接続の良否を外観から判断することが困難な為、接続ミスによる不意な離脱、それに伴う二次災害発生のリスクがある。そこで本開発品では、これまで外観からは判断不可能であった接続状態を可視化・可触化する事により、誰でも簡単且つ確実にスタンドパイプを接続出来るようにした。今後、本開発品が消防隊や消防団を始め、全国の自主防災組織に広く普及する事によって、より安全な消火活動を支え、更なる防災力向上に寄与する事が期待できる。
  • 一般による消防防災科学論文(1編)
    (1)大規模災害時における救援航空機の多数運用を対象とした意思決定支援技術の開発
    真道 雅人、小林 啓二、奥野 善則(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)
     著者らは、大規模災害時における救援航空機の多数運用を想定した意思決定支援技術の研究開発を行っている。本報告では、活動拠点の駐機スペースや燃料(以下、運用資源)の供給能力に応じて活動区域と航空機を割当てる運用を想定した救援活動のシミュレーション環境を構築し、消防防災ヘリ等による救援活動の計画立案における有用性を評価した。東日本大震災の運用資源配置に基づくケーススタディを行い、様々な運用資源配置の試行に対して72時間以内の生存救出者数に与える影響が具体的に比較・分析可能なことを示すことによって、効率的な救援計画の立案に有用であることを確認した。
  • 消防職員による原因調査事例報告(9編)
    (1)アルミ缶リサイクル事業所内の環境集塵機から出火した事例
    田中 充(姫路市消防局)
     本事例は、アルミ缶リサイクル事業所内に設置された環境集塵機から出火し、アルミ缶リサイクル工程内で発生した粉塵等を焼損するとともに作業員が負傷し、粉塵爆発の危険性から付近住民の避難及び交通規制を実施した火災で、消防大学校消防研究センターの技術支援による粉塵の分析を経て出火、延焼、受傷の原因究明を行うとともに、調査の過程で明らかとなったリサイクル工程における危険性から、集塵機メーカー、事業所及び業界団体による個別具体的な安全対策を検討、実施するに至った事案である。
    (2)エレベータ非常用電源装置から出火した火災について
    秋田 勇紀、三浦 光司、鳥居 幹郎、森岡 伸嘉章(川崎市消防局)
     本火災は、エレベータ昇降路内に設置された非常用電源装置から出火した火災である。関係機関と合同で昇降路内の見分を実施し、出火箇所は非常用電源装置内の鉛蓄電池(バッテリー)であると特定した。製造業者とともに鑑識を実施した結果、バッテリー内の正極板が経年劣化により腐食膨張を起こして合成樹脂製の電槽を破壊し、内部の電解液が漏れ、正極板と金属製バッテリーケース間で短絡して、出火したことが分かった。関係業者に対し、火災予防対策について検討するよう依頼文を送付した結果、一斉点検、交換基準の明確化及びバッテリー取扱規程の確立等、具体的な火災予防対策が図られた。
    (3)コンセントの電源線接続部の発熱による火災
    橋本 勇気、入江 和寿、末次 廣嗣、小田 茂史(北九州市消防局)
     本火災は、居室の壁付コンセントから出火したもので、原因はコンセントの電源線接続部が接触不良により発熱し、樹脂部分に着火したものである。接続部の過熱による火災は、電気機器が使用状態で、ある程度の負荷が必要であるが、出火時、携帯電話の充電のみであったことから、出火に至るまで発熱するのか、疑問が生じた。調査の結果、焼損したコンセントは、他のコンセントへ送り配線がされており、他のコンセントで使用されている電気機器の負荷も、焼損したコンセントに作用していることがわかった。このことから、コンセントの電源線接続部の発熱による火災での、火災調査時の留意事項を検討した。
    (4)ごみ固形燃料化施設からの出火に関する調査報告
    福永 真也、山田 啓史、渡瀬 賢太、村西 大介(東近江行政組合消防本部)
     可燃ごみを焼却せず、乾燥させた後に消石灰などを混ぜ込み固形燃料(RDF)に再生処理するごみ固形燃料化施設内で発生した建物火災で、同施設内に設置されている設備の一部を焼損したものである。原因については設備の故障、設備の不備を認識した上での施設稼働、ヒューマンエラーによる散水設備の閉栓が重なり出火に至ったもので、関係者の認識不足が出火に大きく影響した事例である。当消防本部は、この調査結果から関係者に対し再発防止のための改善、職員教育の徹底を指導したものである。
    (5)火元から離れた場所で死者が発生した火災の調査報告
    谷池 史章、上村 雄二、塩谷 俊行(神戸市消防局)
     木造文化住宅において、火元及びその隣室の住人は避難したが、2住戸離れた部屋の住人2名が一酸化炭素中毒で死亡するという火災が発生した。これは昼間の火災であり、住宅用火災警報器が設置され避難するに充分な時間があり、さらに隣室住人が火災を知らせたにもかかわらず2名が死に至ったことを考えると、これまでの火災事例とは異なる要因がそこにあると考えられ、死者発生のメカニズムを解明するため再現実験を実施した。本稿では、その実験結果で明らかとなった煙と一酸化炭素の関係性について記載し、改めて一酸化炭素の危険性を提唱する。
    (6)ファンコンベクターからの出火と類似火災防止事例
    岡井 健策、人見 篤史(神戸市消防局)
     共同住宅において、居室1㎡及びファンコンベクター1基等が焼損した火災である。メーカーとの合同見分の結果、火災の原因はファンコンベクターのマイクロスイッチ部分でトラッキング現象が発生し、出火したものと推定した。同製品を長期間使用した場合、火災に至る可能性があるため、注意喚起の予防広報やメーカーへの行政指導を行った結果、対象製品約9万6千台が使用中止となった。メーカーをはじめ各機関とのスムーズな連携により、火災発生から2ヶ月あまりで使用中止の決定、当該共同住宅設置の全製品対象に電源遮断作業の実施とスピーディーに類似火災防止対策の効果をあげた事例である。
    (7)指定洞道におけるケーブル接続部から出火した火災について
    橋本 正勝、有田 辰哉(船橋市消防局)
     本火災は、指定洞道における変電所と変電所を繋ぐケーブルの接続部から出火した火災である。全長約7キロにわたる洞道内の現場見分から、ケーブル等の4箇所において焼損箇所が認められ、現場調査に2日間、鑑識に3日間を要した調査事例である。また、調査結果から、再発防止対策として関係者により洞道内の再点検及びケーブルと接続部の交換がなされた事例である。
    (8)ウォーターサーバーから出火、リコールに発展した事例
    辻 明人、竹田 悟史(大阪市消防局)
     本件は、一般住宅の1階台所でウォーターサーバーから出火した事案である。ウォーターサーバーについて、メーカー等と合同で鑑識を行った結果、当該ウォーターサーバーに搭載されている殺菌用オゾン発生装置基板上のコンデンサが内部短絡し、出火したものと判明。本調査結果から当該製品については今後も同種の火災が発生する恐れがあると判断し、メーカーに対し再発防止策等を検討するよう強く要望した結果、最終的にはメーカーによる検証結果に基づき市場にある同型製品約18万台について、安全対策が施されたものである。
    (9)スターターの異常連続回転による車両火災について
    中村 祐二、中村 謙吾(福岡市消防局)
     2tトラックに燃料給油をするため、エンジンを停止し、イグニッションキーを抜いて給油中に、突然エンジンが動き出し、エンジン下部のスターター内部から出火した事案である。車両製造メーカーとの合同実況見分を行った結果、助手席付近にあるコネクタが緑青を生じて電気配線が短絡を起こし、スターターへ誤信号が流れ、スターターが異常な連続回転状態となり、スターター内部が過熱し、出火したもの。

2. 奨励賞(2編)

(1)「泡サイフォン管」の開発
鈴口 弘樹、竹内 智哉、吉村 悟(堺市消防局)
 タンク火災における消火活動は泡消火薬剤の継続補給が必要不可欠である。消防車両の増隊、コンテナ容器運搬等によりその対応を図っていたところであるが、搬送ルートの確保、容器入替えに伴う作業負担から決して効率的とは言えなかった。また消防車両からの送液圧により薬液自体が撹拌され、発泡現象を引き起こすという問題点も生じていた。今回、新たに開発した「泡サイフォン管」は泡消火薬剤をサイフォン原理により複数箇所へ等分するもので、形成した複数の薬液拠点との併用により、上記問題点の解消とともに作業手順の簡易性から機械操作を要しない少人数での薬液継続補給が可能となった。
(2)データ放送「救命処置ページ」
三瓶 佑樹、神谷 久美子、森本 和彦、和田 京子、貴島 愛(日本放送協会)
 NHK奈良放送局は、テレビのデータ放送の画面に「救命処置ページ」を開設した。目の前で人が倒れたときの対処法をはじめ、心臓マッサージの方法やAEDの使い方などをイラスト付きでわかりやすく説明している。インターネットを使わない高齢者世帯などは救命処置の方法についての情報を迅速かつ容易に得るのが難しいが、リモコンの「d」ボタンを押せば、すぐにページを表示することができる。日ごろからテレビを見る合間に救命処置について手軽に学んでもらうのに役立つほか、消防が119番通報を受けた際の口頭指導で活用してもらうなど、救命率の向上に寄与するものと期待される。
 
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