消防防災科学技術賞(消防防災機器等の開発・改良、消防防災科学論文及び原因調査事例報告に関する表彰) 表彰式

自治体消防制度50周年を記念して、消防庁は平成9年度から消防科学・技術の高度化と消防防災活動の活性化に寄与することを目的に消防防災機器の開発・改良、消防防災科学に関する論文及び原因調査に関する事例報告を募集し、優秀な作品を消防庁長官が表彰する制度を創設しました。平成26年度は、第18回目となります。

文書による募集案内、消防防災関連紙誌、各種消防関係団体の機関誌への募集広告及びインターネットへの掲載等により広く作品を募って参りました。その結果、本年度も72編という多くの作品の応募がございました。

応募作品は、学識経験者及び関係行政機関並びに関係団体を代表する者からなる表彰選考委員会において審査され、27編(優秀賞24編、奨励賞3編)が受賞しました。

表彰式は、平成26年11月20日(木)に東京・港区ニッショーホールで行われました。


消防庁長官による表彰状授与 選考委員会 講評
選考委員会委員長
亀井浅道 元横浜国立大学特任教授
前列左から五人目より、 渡邉 洋己 消防研究センター所長・辻 和明 さいたま市消防局予防部長(委員代理)・原 正之 公益財団法人日本消防協会理事長・亀井 浅道 元横浜国立大学特任教授(選考委員会委員長)・坂本 森男 消防庁長官・本間 恭二 電気通信大学名誉教授・大野 博見 全国消防長会事務総長(委員代理)・北崎 秀一 消防庁審議官

受賞作品

1. 優秀賞(24編)

  • 消防職員及び消防団員による消防防災機器の開発・改良(5編)
    (1)多機能型乳幼児救助用担架兼用縛帯の開発
    二村 勝彦(松本広域消防局)
     3歳までの乳幼児を安全に搬送及び救助できる資器材がないため、背負い搬送、縦抱き搬送、横抱き搬送、担架搬送、垂直・水平及び座位による吊り上げ・吊り下げを可能とする、多機能型乳幼児救助用担架兼用縛帯の開発を行った。サイズ変更及び耐加重を向上することにより、小児、成人にも対応可能となる。
    (2)「改良型フェイスマスク」について
    佐藤 香美、濱本 佳幸、山城 和久、中本 満繁(呉市消防局)
     フェイスマスクの装着は、頸椎損傷疑いの傷病者において、頭部を挙上し固定することで悪化させてしまうおそれがある。傷病者の頸椎保護を目的とした「マルチフィットマスク」及び酸素の「濃度調節アダプター」の2つ機能をもつ、装着が容易なフェイスマスクの改良を行った。安全でスピーディーかつスムーズな救急活動を行う事が可能となった。
    (3)地図検索システムの開発
    勝原 盛、杉本 強(留萌消防組合消防本部)
     災害発生地域の地理に精通していない職員であっても、出動場所の特定に遅れが生じることがないようにするための地図検索システムの開発を行った。119番通報の場所の検索時間を短縮するとともに、特定した場所の地図をプリントアウトすることにより現場見取り図を携行可能とし、さらに、タブレットの使用により出動車両内からの利用も可能となった。
    (4)防火帽用防爆型LEDライトの開発
    大場 淳一、松本 宏芳、京屋 範子(横浜市消防局)
    寺嶋 徹(株式会社住田光学ガラス)
     活動中の隊員が照明を確保しつつ両手を自由に使用できるようにするために、防火帽と一体化したLEDライトを開発した。防火帽のつば下に貼り付けることによりライトの破損や受傷の危険性を低減させ、ガラス封止LED(GLED)を利用することで高温環境下でも対応可能であり、小型かつ全方向に光の配光があるため自己周囲を一定の明るさの確保ができるようになった。本質安全防爆構造の型式検定に合格したことで、危険場所においても使用できる資機材とすることができた。
    (5)ヘドロの巻き上げを防止する台座の開発
    水門 浩一(神戸市消防局)
     水難救助における危険要因の1 つである、海底からのヘドロの巻き上げによる視界の悪化を防止する台座の開発を行った。台座を使用することによりヘドロに接触することがなくなるため視界の悪化を防ぎ、また、体をコントロールするための難しい技術が不要となり、検索活動に集中することが可能となったことから、より安全な救助活動が出来るようになった。
  • 消防職員及び消防団員による消防防災科学論文(5編)
    (1)剥離可能な遮光塗料での太陽光発電システムの遮光手法の研究
    松本 龍一、髙倉 誠二、平井 武(北九州市消防局)
     消防活動中の消防隊員の太陽光発電システムによる感電を防止するために、農業用ビニールハウスの遮光用として市販されている塗料を利用し、高所作業車塔上や三連梯子上からの吹き付け作業による太陽光パネル遮光手法を考案し、塗料の遮光性能等の検証実験を行った。実験結果から、水性絵の具で着色することでさらに遮光効果を高めることが確認できた。
    (2)救急車の視認性を高めるための反射材の使用についての考察
    吉沢 彰洋(北アルプス広域消防本部)
     救急車の他車からの視認性を高めるために、また、赤色灯を補完し得るものとして反射材に注目し、国内での活用事例を調査・分析し、その普及にむけた課題を考察した。さらに、海外での使用例も調査し、その効果を検証した。
    (3)道路狭あい地域における消防戦術について ~逆引きによる消火栓への水利部署に関する検証~
    眞野 恭輔、山口 明、東 尚志、神村 善正、辻倉 章人(京都市消防局)
     道路が狭あいな地域においては、消防車が進入できない、消防水利が偏るなどの問題があることから、代用吸管では届かない消火栓に、65ミリホースを使い逆引きによる水利部署を行い、その有効性についての検証を行った。その結果、消火栓の静圧を考慮すると、逆引きホース3本までであれば十分に有効放水が確保できることが認められた。
    (4)予防業務における人材育成の変革:新任建築検査員が的確に検査を実施するためのチェックリストを核とした教育ツールの構築
    奥田 里衣子、井上 伸幸、大和田 菜央(京都市消防局)
     ベテラン職員の大量退職とともに予防担当職員が減少するなか、高い専門性が求められる消防用設備、建築同意及び危険物の各領域に関する業務において、経験不足の若手職員のレベル低下が危惧される。建築業務に焦点を当て、検査現場で使用する検査チェックリストを柱とする、施工状況等の状態が分かる写真資料など教育資料としても活用可能な建築検査マニュアルを作成し、実際の検査現場で試用したところ、一定の効果が得られた。
    (5)圏外におけるスマートフォンを使ったGPS位置情報の消防活動での有効活用についての研究
    中塚 文博、水野 仁(姫路市消防局)
     通話サービスエリア外(圏外)において、スマートフォンの持つGPS機能が、救助などの消防活動において有効かどうかの検証実験を実施した。その結果、災害発生場所がサービス圏外である場合でも、スマートフォンのもつGPS機能によって自分の位置が確認可能で、被害の調査、被災者の救護、救援物資の配布など災害活動がスムーズに実施できることが示された。
  • 一般による消防防災機器の開発・改良(4編)
    (1)NFシステム(閉鎖型水噴霧設備)の開発
    藤野 健治(株式会社三菱地所設計)、柳田 充(斎久工業株式会社)
    保戸塚 昭夫、千葉 亮太郎(千住スプリンクラー株式会社)
    吉葉 裕毅雄、有田 靖道(能美防災株式会社)
     自走式駐車場などに設置されている消火設備で使用されている泡消火薬剤・泡消火剤水溶液は環境に悪影響を与えるとともに、その処理は困難を伴うことから、水を火災抑制剤として使用し、環境にやさしく安全性に優れた、設置コスト・維持管理も安価で容易になる火災抑制システムを開発した。
    (2)ペットボトルを利用した訓練用人形の開発
    齊藤 智夫、永山 政広(特定非営利活動法人ライフ・コンセプト100)
     自主防災組織で実施される負傷者の救出・救助、搬送等の防災訓練において、訓練人形が普及することを目的に、身近にある古着やペットボトルなど使用済み製品を利用し、安価で、短時間に、誰でも製作可能な救助訓練人形を開発した。
    (3)耐外力向上スプリンクラーヘッドの開発
    菊池 哲郎、竹内 孝、狩原 幸典、菊池 正勝(千住スプリンクラー株式会社)
    秋本 和幸、中村 雅之、亀石 博隆、村上 匡史(能美防災株式会社)
     近年、スプリンクラーヘッドについて、工期の短縮や作業の効率化が進み、慎重な取扱いが要求されるものよりも、多少の外力を受けても使用可能なものが求められている。ヒートコレクタを椀状にすることにより強度をあげ、さらにシリンダーと一体にして熱伝達ロスを低減することなどにより、耐外力性能の向上と作動信頼性を確保したスプリンクラーヘッドの開発を行った。
    (4)静電気障災害を防止する「防爆構造の接地確認装置」の開発
    野村 信雄、山田 文男、鈴木 輝夫、橋元 文秋、廣田 友樹(春日電機株式会社)
     可燃物質を取り扱う製造・生産現場等での静電気障災害の防止、及び現場の安全衛生対策のために、金属製の容器や器具などの静電気放電の発生源となるものが、確実に接地に接続されていることを可視化する「接地確認装置」の開発を行った。日本国内では初めての本質安全防爆検定合格品であり、可燃性物質を扱う工程でも安全に使用できるものとした。
  • 消防職員による原因調査事例報告(10編)
    (1)ガステーブル内部でのトラッキング現象
    浦 宏、砂場 浩司、上村 拓矢、柳 雅昭(北九州市消防局)
     共同住宅の台所に設置されたガステーブルから出火した事例である。調査・鑑識見分から、ガステーブル内部からの出火であると考え、再現実験を行った。原因は、配線被覆が劣化・損傷し、接続コネクター樹脂の一部が炭化(グラファイト化)して発熱し、付着していた「ほこり」又は「動植物油等」に着火したものと推定した。ガステーブルメーカーに対し、販売及び交換する「電装ユニットへの接続コネクター」を耐油・防水性を有するものへ変更する等、検討するように要望書の提出を行った。
    (2)小型模擬火災室を使用した出火原因等の究明事例について
    永松 拓也、古畑 慎平(大阪市消防局)
     耐火構造の建物で火災が発生した場合、木造の建物に比較して特異な焼き状況を示すことがある。本事案は、鉄筋コンクリート造の共同住宅で発生した火災で、実況見分を行った結果、火災室の入口玄関付近と、そこから約5m離れた居室開口部付近の2箇所に強い焼き状況が認められた。再現実験と電気実験を行い、科学的かつ合理的に原因究明を行った。
    (3)製品の火災事例による安全装置の考察
    塩谷 誠、渡部 聡、竹内 尚史(埼玉西部消防局)
     3つの火災事例の調査を基に、製品の電気回路を守るだけでなく、製品から発生する火災を防止する役割をしているヒューズについて着目し、適正な安全装置を製品へ装備することが、製品から発生する火災を予防するために、有効であることを考察したものである。
    (4)リコールにつながった食器洗い乾燥機の調査報告
    中島 資朗(太田市消防本部)
     専用住宅の台所に設置された食器洗い乾燥機から出火した事例である。鑑識見分から食器洗い乾燥機ヒーターのリード線カシメ部に若干の隙間があり、リード線に電気痕があることが認められた。メーカーとの考察の結果、リード線のカシメ強度不足のため接触抵抗が増大し、被覆のチューブが発火すると判定した。製品の構造が不完全と判断し、リコール対応となったものである。
    (5)車両の前照灯(ハロゲンバルブ)の取り付け不良による出火事例
    真鍋 達也(名古屋市消防局)
     普通乗用自動車の前照灯付近から出火した事例である。助手席側の前照灯において、ハロゲンバルブがソケットから外れた状態で確認され、ソケットの一部が溶融し、ハロゲンバルブについてもパッキンが2個付いた状態であったという実況見分から、ハロゲンバルブの取り付け不良が判明した。
    (6)耐熱ガラスも溶かす電子レンジの調査報告
    村田 雄二、松下 哲也(名古屋市消防局)
     量販店舗で、タイマーが動いていた電子レンジから白煙が出ていた事例である。現場の状況から、レンジ内のターンテーブルが傾斜していたことから、ターンテーブルを傾斜させた状態で実験を行った。実験結果から電子レンジは、正常な使用では発熱の変化は見られなかったが、ターンテーブルを傾けるなど条件が揃えば短時間で発火する可能性があることが証明された。何らかの原因でターンテーブルが回転ローラーから外れ、傾斜した状態になるとマイクロ波が集中する箇所が発生し、そのまま放置すると耐熱ガラスを溶かす温度に達し、可燃物があれば1分以内で発火することがわかった。
    (7)焼肉用カセットガスこんろの安全性について
    堀田 晃史、平松 吉隆、山田 茂、原 孝一、武藤 順保(名古屋市消防局)
     カセットボンベ破裂事故の事例である。カセットこんろ本体のスイッチを【消】の状態(ガスの供給停止)にしたにもかかわらず、カセットボンベが破裂したもので、過去の事例とは異なり、普通の状態(正常な取扱方法)で使用していた。原因は、カセットボンベのガスを効率的に気化させるための装置(ヒートパネル)が、トレーに落下した油などが燃えた炎によって加熱され続け、ヒートパネルがカセットボンベを加熱し続けることによるものだった。
    (8)リンに起因するトラッキング火災
    北東 昭人、小椋 幸浩、樋口 仁司、小寺 弘之、杉山 昌彦、
    松宮 隆、多田 和容、木村 章成(枚方寝屋川消防組合消防本部)
     エアコン室外ユニットが一部焼損した火災事例である。出火原因は、制御基板を保護する樹脂製ケース(海外製)に含まれる難燃剤の「リン」が加工不良であったことから高温高湿環境によりブリードアウト現象(樹脂やゴム等に含まれる難燃剤や添加剤等が浮き出ることがある現象)が生じ、樹脂表面に浮き出たリン電解液が制御基板上に付着して発生したトラッキング現象である。原因究明後、類似火災防止に向けてメーカーと協議を重ねると共に、当消防本部ホームページの「火災事例」に本事例を掲載し市民に対して広報を行った。
    (9)亜酸化銅増殖発熱現象による火災を生じさせた製品欠陥(不良)の追究
    池田 雅孝、武田 光広(神戸市消防局)
     神戸市の一戸建住宅浴室内において、浴室暖房機1台を含む天井0.4㎡が焼損した事例である。浴室暖房機内部のヒーター近くに設置されたヒューズにおいて亜酸化銅が生成され、さらに通電に伴う亜酸化銅増殖発熱現象により亜酸化銅の生成が継続し、その過程で生じるジュール熱によって周囲の部品類が過熱されて、溶融、着火に至ったものと、原因を推定した。消防と製造会社等の合同見分で、ヒューズ部分において、亜酸化銅増殖発熱現象が生じた痕跡を確認した。
    (10)ガスフライヤーの油漏れによる出火と機器改修事例
    伊藤 克成、北村 正太(京都市消防局)
     ガスフライヤー設備からの出火事案である。詳細な火災調査により、フライヤーの不具合箇所を発見し、構造に起因する出火危険が判明した。製造業者及び飲食店舗側を指導した結果、系列店舗に設置されていた同機種フライヤーすべての改修に至り、同様火災の再発防止につなげたものである。

2. 奨励賞(3編)

(1)消防用ホース固定金具の開発
鈴木 雅也、小川 知也、彦坂 正人(豊橋市消防本部)
松下 直弘(豊橋市消防団)
 サラリーマン消防団員の比率が70%を超える当市にあっては、ホース乾燥塔にホースを吊り下げた後、急な天候の悪化により強風になった場合に、速やかにホースを降ろす等、対応できる団員が少ない状況にある。強風下で吊り下げているとホースと乾燥塔に縛り付けたロープが緩み、やがて外れてしまい、ホース継ぎ手金具が振れ、周囲にも危険を及ぼす可能性がある。吊り下げられたホースの下端を容易に固定できる消防用ホース固定金具を考案し、これによりホースが緩んでしまった場合も簡単にホースが外れず、団員が対応するまでの間、安全性を確保することが可能となった。
(2)片手操作できる聴診器アタッチメントの考案
前田 健人、文岡 直樹(湖南広域消防局)
 現状使用している聴診器は両手で両耳に装着しており、片手が塞がっている状態での装着が不便であった。片手で素早く装着でき、現行の聴診器に取り付けられる、軽くてかさばらない、また、聴診器本来の目的を損なうことがない、洗浄可能な聴診器アタッチメントの開発を行った。
(3)可燃性固体の燻焼試験法に関する研究
桑名 一徳、内田 洋輔、飯塚 洋行(山形大学)
櫛田 玄一郎(愛知工業大学)
 火災時に多く発生する可燃性固体の燻焼(表面燃焼)試験法について、簡便で汎用性の高い方式を提案した。プレートヒーターを用いることにより、強制対流による空気供給が不要で、空気流速の影響を受けることなく可燃性固体の燻焼性そのものを評価することが可能な試験法を、数値シミュレーションと実験によって検証した。