南海トラフ地震や首都直下地震では大規模火災の発生が危惧されていますが、火災時の被害を格段に大きくする火災旋風・飛火には多くの未解明な点が残されています。大規模火災時の被害想定や消防活動計画の策定に役立てるため、これらの現象を解明するための研究を行いました。また、火災旋風・飛火の出現を左右する火災周辺気流の速度場の計測精度向上に関する研究も行いました。この計測精度を向上させることで、上空からの被害状況把握等の火災現場での効率的な消防活動の支援にも寄与できると考えています。

a 火災旋風の発生メカニズムと発生条件に関する研究

  火災旋風とは、火災の中やその周辺で発生する竜巻状の渦です。火災旋風は、その猛烈な風で火の粉を近くにも遠くにも飛ばして火災を急速に拡大するだけでなく、人や物を吹き飛ばして避難を困難にし、死傷者を出すこともあります。1923年の関東大震災では、人々が避難していた陸軍被服廠(工場)の跡地であった空き地に火災旋風が襲来し、この場所だけで約3万8千人もの方が亡くなりました。
  火災旋風は、炎を含んだ火柱状の渦として現れる場合もあれば、煙、灰、砂ぼこりなどを含んだ煙状の渦柱として現れる場合もあります。煙状の火災旋風は火災の風下に発生することが多く、被服廠跡を襲った火災旋風も当時の証言や気象条件、火災状況などからこのような状況で発生した可能性があると考えられます。しかし、どのような条件の時に強い勢力の煙状の火災旋風が発生するのか分かっていません。


第2-2-1図 「火柱状の火災旋風」の実験 第2-2-2図 炎を含まない「煙状の火災旋風」の実験:炎の風下で
発生した火災旋風が風下に流される様子を白煙で可視化している。

  そこで、炎に横から風をあて、いくつかの条件を変え、発生する火災旋風の性質がどのように変化するのかを実験で調べました(第2-3図)。その結果、風に対して火源の向きを変えると、同じ風速下でも煙状の火災旋風の渦の強さやサイズが大きく異なり、また、風速に対する渦の強さやサイズの変化傾向も大きく異なることが分かりました。
  実験のほかにも、2016年に起きた糸魚川市大規模火災の延焼の調査・分析により、風で傾いた火災上昇気流内の渦が起こす風が、市街地の延焼速度や飛び火の位置に影響を与えた可能性があることも分かりました。


第2-3図 異なる風速下での火源風下の水平面内痩躯度と渦度(流体の微小部分の回転の強さを表す量)の分布例

  第2-3図 異なる風速下での火源風下の水平面内速度と渦度(流体の微小部分の回転の強さを表す量)の分布例

b 飛火現象における火の粉の着火性に関する研究

  「飛火現象における火の粉の着火性に関する研究」では、糸魚川市大規模火災の災害調査、火の粉発生装置を用いた火の粉による着火実験、予備注水による火の粉からの防御に関する実験を行いました。
  糸魚川市大規模火災で採取した火の粉の解析の結果、最大の火の粉は114gであるものの、火災現場で採取した火の粉に関しては質量0.1g以下の小さなものが60%以上を占めていることがわかりました。また、火の粉の投影面積と質量の間には正の相関関係が見られました。半焼した家屋の状態と目撃談より主な着火場所は屋根であると考えられます。
  火の粉発生装置を用いた着火実験では屋根を対象とした実験を行いました。大規模・中規模両方の実験で、火の粉が瓦の下に潜り込む現象を確認しました。着火は確認できませんでしたが、桟木(さんぎ)が焦げているのが確認されました。潜り込んだ火の粉によって、屋根の桟木・野地板等から着火に至る可能性が確認できました。潜り込んだ火の粉が可燃物を着火することが可能かどうか確認するため、瓦の下に枯葉(可燃物)を置いて風速6m/sと9m/sで実験を行いました。枯葉が瓦の下に潜り込んだ火の粉によって着火し、瓦の下から炎が確認されました(第2-4図)。風速9m/sの方が風速6m/sより着火しやすいことが分かりました。


第2-4図 日本瓦の下から炎が見える様子(風速9m/s)

第2-4図 日本瓦の下から炎が見える様子(風速9m/s)


  日本瓦屋根を対象とし、火の粉発生装置を用いた実験を行い、上方向からの予備注水の効果を観察しました。瓦の上に均一に予備注水をした場合には注水後短時間は屋根の下に潜り込む火の粉の数が減少する様子が見られました。しかし、上方向から予備注水を均一にすることは難しく、水のかかっていない部分から潜り込んだ火の粉によって着火する危険性があることがわかりました。

c 火災周辺気流の速度場の計測精度向上に関する研究

  「火災周辺気流の速度場の計測精度向上に関する研究」では、PIV(Particle Image Velocimetry)やTIV(Thermal Image Velocimetry)などの画像解析技術を用いて、火炎周辺の気流を可視化し、その速度場算出精度を高精度化するための技術の研究開発に取り組んでいます。可視画像と熱画像から2次元平面内の気流の速度場を算出する手法、画像解析の結果と超音波風速計での計測値を組み合わせることで計測精度をさらに向上させる手法を開発し、実験室で燃焼観測を行い(第2-5図)、算出精度の検証(第2-6図)を実施しました。また、野焼き観測における野外での計測実験も継続的に実施することで(第2-7図)、将来的な社会実装に向けた、開発手法の性能や特徴の整理にも取り組んでいます。


第2-5図 開発手法を用いた実験室での燃焼観測の様子

第2-5図 開発手法を用いた実験室での燃焼観測の様子


第2-6図 段ボール片の燃焼における火炎周辺気流の観測(可視画像を解析して気流の速度場を算出した結果(左)と同時刻の熱画像(右)の比較。可視画像のみの画像解析では、煤と火炎の区別が困難であることも実験の結果から明らかになりました。)

第2-6図 段ボール片の燃焼における火炎周辺気流の観測(可視画像を解析して気流の速度場を算出した結果(左)と同時刻の熱画像(右)の比較。可視画像のみの画像解析では、煤と火炎の区別が困難であることも実験の結果から明らかになりました。)


第2-7図 野焼き観測における野外での計測実験の様子

第2-7図 野焼き観測における野外での計測実験の様子



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