記録の数値化と補正について
記録の数値化と補正
気象庁1倍強震計記録の数値化
- 最大A3判までの強震記録の実大コピーをイメージスキャナーで画像データとしてパソコンに取り込む。
- 背線、汚れ等が含まれる画像データから半自動的に波形のみを抽出する。
- 時間軸については100dpi、振幅方向については100または200dpiで取り込んでいるため、時間送り3cm/min、倍率1倍(公称値)の気象庁1倍強震計記録では、時間軸で0.508sec/dot、振幅軸で0.0254または0.0127cm/dotの解像度となる。
- 記録によって時間送りが若干異なっているため、タイムマーク(分)を記録毎に読取り、補正に用いている。
- 原波形と数値化波形との対応はCRT上で数値化作業の中で確認し、異なっている場合にはマニュアル操作で修正。
- ある区間が途切れていたり、飽和していたり、明らかに異常な記録については、可能な限り適切に内挿した。
計器補正について
1倍強震計は、公称値として周期6秒(水平)及び5秒(上下)、倍率1倍、制振度8(減衰定数0.552相当)、描針腕(アーム)の長さ300(水平)及び250mm(上下)、最大記録全振幅60(水平)及び50mm(上下)、ドラム回転速度30mm/minの機械式地震計であるため、実地動を得るためには種々の補正を施す必要がある。
以下に文献1)に基づいて実施してきている計器特性の補正手順を参考として示す。
なお、本システムで提供するデータは補正前の生データである。
① 片振れ、円弧補正
記録ペンが中心線からずれ、いわゆる片振れ状態になる場合がある。
またアーム長が有限であるために振幅の大きい場合には円弧を描く。
この2つの波形の歪みの補正は独立には行えない。
中心線からのずれ及び円弧のない場合に記録されたであろう点の座標を(x, y)、原記録での読み取り座標を(X, Y)、アーム長をL、ペンの中心線からのずれをcとすると、
x = X - L (1 - cosθ)
y = L (θ - φ) … (1)
ここで、
sinφ = c / L
sinθ = (c + Y) / L … (2)
従って、補正データ(x, y)はcに依存する。
cは最大記録振幅範囲にあるはずであるので、値としては-3~+3cmをとる。
cは未知数としてこの範囲内で試行錯誤的に与え、波形を描き目視によって判断する。
通常、片振れは殆ど認められずc=0。
② 時間幅の戻りの補正
円弧補正後のデータには、紙送りの速度、ペンと記録紙間の摩擦間の摩擦のむら、数値化誤差等の影響によって、時間軸の逆転、即ちi番目のデータの時間軸の座標をxiとするとxi>xi+1となることがある。
この補正には、以下のような処理を行う。
xi = xi - (xi - xi+1)・0.75
xi+1 = xi+1 + (xi - xi+1)・0.75 … (3)
また、xi = xi+1の場合は(3)式の右辺第2項の代わりに0.5・△xを用いる。但し、△xは時間軸方向の1dotの長さである。
③ 等間隔データ作成のための補間処理
この時点でのデータは、地震計の紙送り速度が一定でないこと及び(2)の処理のため時間について不等間隔である。
後の処理では等間隔データであることが要求されるため補間処理が必要となる。
この補間法としては安定性の高いcos補間法等がある。
④ 地震計の特性補正
地動変位をx(t)、記録された振れをy(t)とすると、地震計の振子の運動方程式は、
y¨(t) + 2hny・(t) + n2y(t) = Vx¨(t) … (4)
ここで、V、h、nは基本倍率、減衰定数、振子の固有角周波数である。ω、iをそれぞれ角周波数、虚数単位とすると、この場合の地震計の周波数特性は、x(t) = eiωt、y(t) = A(ω)・eiωt、V = 1と置くと、
A(ω) = ω2 / (ω2 - n2 - 2hnωi) … (5)
となる。
従って、(3)までの処理で得られたデータy(t)をフーリエ変換し、A(ω)で除して逆フーリエ変換を行えば、実地動x(t)が得られる。
但しフーリエ変換の安定性を保つための前処理として、データ長の0~5%及び95~100%間がcostaper型関数で、それ以外が1であるようなウィンドウをy(t)にかける。
また、地震計の周期特性を考慮して2~20秒のバンドパスフィルターを通した後に逆フーリエ変換する。
以上で実地動が得られる。
参考文献
1) 建設省土木研究所地震防災部振動研究室:気象庁一倍強震計記録に基づく長周期地震動特性の解析(その5)1978年宮城県沖地震記録の解析、土木研究所資料 第2664号、1988